育児休業から現場復帰する際に、育児休業終了時改定はするべき?

育児休業(以下、育休)から復帰した際、給与が下がることがよくあります。そんなときに活用できるのが「育児休業終了時改定」です。この制度は、復帰後の報酬に基づいて標準報酬月額を改定し、社会保険料の負担を軽減するもの。しかし、「標準報酬月額が下がるなら届け出るのが当然!」と考えるのは早計です。実は、届け出ない方が得になるケースもあります。

今回は、少し難しいかもしれませんが「終了時改定をした場合」「しなかった場合」を具体例とともに分かりやすく解説していきます。

育児休業終了時改定とは?

育休終了時改定は、育休復帰後の3か月間の報酬平均に基づき、4か月目から標準報酬月額を改定できる制度です。通常の随時改定(固定的賃金の変動による改定)と異なり、以下の特徴があります。

  • 1等級差でも改定可能:終了時改定は、1等級の変動(少ない減少幅)でもできます。
  • 1か月のデータでもOK:終了時改定は、支払基礎日数(通常出勤日)が17日以上(パート等は異なる)なら17日以上出勤した月が復帰後3ヶ月のうち1ヶ月しかなくてもできます。
  • 改定は任意:終了時改定は、改定するかしないかに関して被保険者が選択可能です。

この柔軟性が、育休復帰者の保険料負担を軽減する一方で、選択の難しさを生みます。
なぜなら、届け出の有無で当面の保険料と将来給付(手当金等)の金額が変わるからです。

「届け出るのが得」とは限らない?

育休復帰後、時短勤務などで給与が下がると、復帰前の給与を基準にしている標準報酬月額を下げて保険料を節約したくなります。

しかし、以下のようなケースでは、考えてみる必要があります。

具体例:山中さんのケース

  • 現行標準報酬月額:32万円(復帰前の給与に基づく)
  • 復帰日:2025年5月17日
  • 5月~7月の報酬
    • 5月:12万円(復帰月で出勤日数が少ない)
    • 6月:32万円(フルタイム勤務)
    • 7月:28万円(時短勤務開始)
  • 状況:7月から時短勤務開始に伴い基本給が減額。8月以降も時短勤務を継続し、28万円が続く見込み。


A. 育休終了時改定を届け出る場合
復帰月である5月は基礎日数不足(出勤日17日未満)で除外なので、6月(32万円)と7月(28万円)の平均を取ると、報酬平均は30万円。
よって、育児休業終了時改定をすると、復帰月から4ヶ月目の8月から標準報酬月額が30万円(改定前32万円→改定後30万円)に改定されます。

B. 届け出ない場合
7月開始の時短勤務により給与低下で「2等級以上の固定的賃金の変動」に該当するため、変動月である7月から9月までの3ヶ月平均報酬を使って、10月から随時改定の可能性があります。7~9月の報酬が28万円で推移した場合、平均報酬は28万円となり、10月から標準報酬月額が28万円(改定前32万円→改定後28万円)に改定されます。

では、A(終了時改定を届出た場合)とB(終了時改定を届出しない場合)どちらが得なのでしょうか?

これを比較するには「どの時点で」「何が得なのか」をしっかり把握する必要があります。

保険料と健康保険からの将来給付(手当金)を比較してみましょう。

上の図の通り

  • A(育休終了時改定を届け出る):8月の育休終了時改定で標準報酬月額が30万円に下がり、翌年9月定時決定まで標準報酬月額が30万円継続と仮定。
  • B(育休終了時改定を届け出ない):8月~9月は標準報酬月額32万円が続き、10月の随時改定で標準報酬月額が28万円に下がる。

(1) 社会保険料はどっちが安い?

以下の表で、2025年8月~2026年8月(13か月間)の保険料(健康保険+厚生年金、被保険者負担分、協会けんぽ東京支部の2025年5月時点の料率で試算)を比較します。

選択肢標準報酬月額保険料総額(13か月)
A(届け出る)8月~:30万円約550,000円
B(届け出ない)8月~9月:32万円
10月~:28万円
約525,000円

結果13ヶ月でみると育休終了時改定を届け出しない方が約25,000円保険料が安いとういう結果になります。

ただし、8月~9月の2か月間は時事改定前のため高い標準報酬月額(32万円)で保険料を払う必要があり、短期的な負担は重くなります。

(2) 将来給付(手当金)はどうなる?

次は健康保険からの出産手当金についてみてみましょう。
2人目の子の出産予定がある場合、標準報酬月額が低いと将来の出産手当金や厚生年金に影響する可能性があります。特に出産手当金は、過去12か月の標準報酬月額平均に基づいて算出されます。

仮に、2026年8月以降の出産で出産手当金(98日分)を受給する場合

  • A.育休終了時改定を届け出る(標準報酬月額30万円)
    1日あたり約6,667円(30万円÷30×2/3)×98日=約653,000円
  • B.育休終了時改定を届け出ない(標準報酬月額28万円)
    1日あたり約6,222円(28万円÷30×2/3)×98日=約610,000円

結果育休終了時改定を届け出る方が約43,000円得をするということが分かります

(4) 年金の影響は?

標準報酬月額が下がると将来の年金が減る懸念がありますが、子が3歳までの間は養育期間特例を申請することにより、標準報酬月額が下がっても年金受給額が保護されます。よって、このケースでは年金の影響は考慮不要です。

なぜ複雑なのか? タイミングのずれが鍵

今回のケースが複雑なのは、時短勤務の開始した7月の給与が、定時決定(4月~6月の報酬で9月改定)に反映されないためです。

6月の報酬(32万円)が標準報酬月額を維持させ、給与低下が育休終了時改定や随時改定でしか反映されない。この「タイミングのずれ」が、複数の選択肢と損得を生みます。

もし6月から時短勤務で報酬が28万円だったら、定時決定(4〜6月給与を使用)で9月から標準報酬月額が28万円に下がり、検討する手間が減ったでしょう。

最後に

育休終了時改定は、単に「保険料(標準報酬月額)が下がるから届け出」と考えるのではなく、総合的に考える必要があります。短期的にはそこまで大きい金額差ではありませんが、保険料の節約は魅力的ですし、出産手当金やライフイベントを見据えた選択が重要です。